私は猫



「それで」



「あぁ、ちゃんと話します」



空になったお皿を台所に下げて、二つのマグにコーヒーを持ってきた私を菜々子さんが待ち構えていた。



「昨日のお客さん、すごく酔っていたので駅まで送っていくことにしたのです」



「うんうん」


菜々子さんは渡したコーヒーに口を小さくすぼめて息を吹きかけていた。



「あ、でも駅前の交差点でお客さんが寝てしまったので…出張で来ているホテルに連絡して迎えに来てもらいました」


私はコーヒーに牛乳を注ぎながら話した。



「でも、そこで私だけ帰るわけには行かないでしょう?だからお客さんを寝かしつけてから帰ってきました」



「ホントにそれだけ?」



「ちょっと、事故がありましたけど…」



「はぁ、何それ。だから時間遅かったんだ」



「イヤだな。帰ってきた時間まで知られてるんだから。起きてたんですか」



「違う。クロが反応したんだ。外出て行きそうだったから連れ戻そうと思って外見たらヒナがいたから」



「すぐに帰りましたよ。帰りに魚屋の鷹さんに会いました。衣装のまんまでしたから…きっと驚かれたんだと思います。あら汁をご馳走してくれて」



「ふーん、そうなの。なんだ、何にもないじゃない」



「…何期待してたんですか」



「だって、ヒナがアフターで朝帰りなんて初めてだったから」



拗ねた子供のような表情とは裏腹に私の膝の上に倒れこんできた。



「残念でしたね。あいにく、私には縁のない話です」



「そう」



横になっていた菜々子さんが起き上がって、私の頬に手を添えた。



「こんな風に、胸が熱くなるまで見詰め合ってさ…一緒にいたいって思えるダイスキな人ができるはず」



「菜々子さん」



「そのときは真っ先に教えなさいよ。ヒナってば聞かないと何にも教えてくれないじゃない」



「ハイ」



私はソファに座りなおして伸びをする菜々子さんが愛らしく見えた。



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