私は猫



それからしばらくして菜々子さんは自分の部屋に戻り、



私は2時間後にアラームをかけて仮眠をとることにした。



ママのお店の休みは毎週月曜日



「あと2日頑張って…休もう」



週末である今日明日が一番客足の多い日だ。



いっぱい働いてたらいつの間にか忘れるだろうし。



掛け布団を被った瞬間、南さんとのことが頭によぎり



私は唇に残った生々しい感触を消そうとゴシゴシとこすった。



私はもう振り回されない、



そう心に誓って。






***






「おはようございます」



「おはようヒナ。はいこれ、昨日の荷物」



お店に入るとすぐ、ママに優しい声で私に渡してくれた。



「すみませんでした。連絡もしないで」



「いいのよ。大変だったでしょうから」



「以後気をつけます」



そう聞いてママは新聞から一枚チラシを持ってきて私に見せた。



「月曜日、ヒナは予定はあるの」



「いえ、特には」



「新しくカフェが出来たのよ。買い出しのついでに一緒にどうかしら」



チラシには観葉植物がたくさん置かれたウッディーなカフェが載っていた。



「嬉しいな。ぜひ行きましょう」



笑ってチラシを返すとママはおもむろに私をギュッと抱き締めた。



それは本当に暖かくて優しさで溢れていて



「ママ…」



私は思わず涙が出た。



「いつまでも一人で抱えるのはよしなさい」



「えっ」



ママはさらに力をこめた。



「ヒナは一人じゃないの。あなたが悲しむとみんなも悲しむから」



ママはそう言って私から離れ、何もなかったかのように奥の厨房に消えた。



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