夏の海
暑い街と冷えた家

 セミの鳴き声、逃げ水、うだるような暑さに流れる滝汗、夏が来た。教室は多量の湿気に襲われ、生徒は壊滅状態である。まあ、エアコンのない学校なんてだいたいこんなものだろう。机に頭を突っ伏す生徒の中、黙々とオレ、坂田和馬はノートを取っていた。
 だるい、だるすぎる。オレ以外、誰も授業なんか受けていないんじゃ……、オレもサボろうかな。

「坂田、前の席の小山起こしてやれ」

 黒板の前にいる教師は、小山の方を見てあごをクイッとやった。ちなみに小山の隣の席の奴は夏の大会何たらで公欠だ。てか先生、生徒をあごで使うんですか。

「おい、小山、小山起きろよ」

 後ろの席からオレが、小山の椅子をガタガタ揺らしてやると、

「……ん……うわああああ」

 と叫びながら顔を上げた。何てデカい寝言だコイツは……。しばらくの間、小山は教室の中をきょろきょろと見回すと、何に安心したのか「はぁぁ……」と大げさに息を吐いた。
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