夏の海

 家に帰ると、母はやはりおらず、父は海外出張なのでいるはずもなく、誰もいない家の中を進んで行く。最近、まともに両親と会話をした覚えがない。父はもとより、同じ家で生活しているはずの母でさえ一週間以上会っていなかった。台所のカウンターにはほぼ毎日、紙幣が数枚と、味も素っ気もない文字で「こづかい」と走り書きされた紙が乗っている。それは使い回されいつ書かれたものかも思い出せず。無造作に置かれた紙幣に何も感じることもなくなった。この家に『家族』なんてモノは存在していない
 今日の文の小遣いを持って、オレは二階の自分の部屋へと駆け込む。この家にあるたった一つの自分だけの城だった。

「はあ……」

 大きなため息と共に自分の手の中の紙幣を見る。一万円札が一枚、千円札が三枚、合わせて一万三千円。金額はその時によってまちまちである。
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