夏の海
 大きい金の方を引き出しの中の封筒に入れると、残りの三千円を財布の中に入れた。多量の小遣いがあったところでオレには使い道が無く、大抵は不要な物として貯まっては軽く引き出しの中でインフレを引き起こしている。もうすでに封一つはいっぱいになっていて、軽く百万はいくだろう。他にも貯金をしているから合わせればそれなりの額になるかもしれない。それですら親からしてみればはした金だ。オレの家は、物にあふれ何もない。
 ふと昼間のことを思い出す。
 オレの目に映った小山のうなじに走っていたのは赤でもなく青でもない鮮やかな色だった。
 一言で言うなら、小山は変な奴だ。衣替えが終わっても長袖を好んで着るし、髪は手入れもせず、ざっくばらんに切られボサボサしてるし、小柄な女で骨と皮だけみたいにガリガリに痩せてるくせしてオレより男らしい性格をしている。そう言えば、いつも黒いTシャツを愛用してるのを思い出し、暑そうだと思った。

 あの時、小山のうなじを走っていた色は確かに、鮮やかで綺麗な紫をしていた。
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