とある僧侶と不遜な僧侶
――正午。
自分達の町を出た二人は隣町【蛾膳】(がぜん)の門を潜るところだった。
身分証明となる名前の彫られた木の板切れを憲兵に見せて、おかしいところがなければ通される。
木の板、名前は【木判】(もくばん)というが、これには彫った文字に色がつけらていてどこの町からきたか判る様になっている。
普通は、色と町名が合っているかを確認するため、持ち主にいくつか質問をしてから通される。
しかし、蛾膳の関所はチラ見程度で済ませ、旅人や商人を素通りさせていた。
これに納得がいかない弥夜は憲兵に文句を言おうと、門を潜る足を止めようとした。
「何でちゃんとやらないんですかね? ちょっと一言注意を――」
それを弥昼が慌てて遮った。
「ああ! 止めて! 本当にやめて! 迷惑デス!」
「何で迷惑なんです!?」
「ったく、先輩は寺の常識しか知らないんすかぁ?」
呆れたように、弥昼はその赤い髪をぽりぽりと掻いた。
「蛾膳は貿易目的の商人がたくさんやってくる町なんす。うちのしがない町と違って、たくさんの人の出入りがあるんすよ~? そんなん一々見てらんないっしょ? それにその町の事情には首突っ込まない方がいいんすよ。俺らはただの旅人です。放っておくのが一番です!」
「もっともらしい事を言っていますけど、たくさんの人の出入りがあるからこそ、警備はしっかりすべきです!」
その正論を聞いた弥昼gはついイラっときて暴言を吐いてしまった。
「この、朴念仁!」
「はあ!?」
この一言に弥夜が反応しないわけもなく
「テメッ! 誰に口聞いてんですか!? ああ!?」
「先輩です~! 先輩以外に朴念仁なんて誰がいるんすかぁ?」
「この……っ! それが先輩に対する態度ですか!? 改めなさい!」
「うぜえよ! 今は旅してんだ! 先輩も後輩もねえだろうが!!」
案の定、喧嘩がおっぱじまってしまった。
「キミ達やめなさい!」
ギャイのギャイのと言い争う声を聞きつけて憲兵が慌てて仲裁に入る頃には、すでに多くの野次馬が二人を囲んでいた。
その群れを見つめるように、薄茶色のおさげ髪の十代半ば頃の清楚そうな少女が買い物籠を持って立っていた。
その肩にはインコのような青い鳥が乗っている。
「やれやれ! 兄ちゃん達!」
「赤毛のニイちゃん見せたれよ~!」
野次に乗せられて、弥昼は弥夜を挑発した。
「おら! かかってこいよ!」
「こいこい!」と手で合図をし、リズムをとる弥昼に対し、弥夜は静かに俯いていた。
そして、口元に笑みを浮かべると、槍に被せている布をするりと脱がし、顔を上げた。
「確かにそうですね。私達は今旅をしているんです。なら……旅の途中の事故死なんてザラですよね?」
「ごめんなさい」
弥夜は信じららないスピードで即座に土下座した。
『なんかすんません!』
その後に続いて、何故か野次馬連中も一斉に土下座した。止めに入っていた憲兵ですらも謝っていた。
それ程、弥夜の悪魔のような冷徹な微笑は恐ろしかったらしい。
「解ればいいんです。解れば」
弥夜は言って槍先に布を被せた。そんな様子を、おさげ髪の少女は感慨深く見つめ、呟いた。
「ふ~ん……」
自分達の町を出た二人は隣町【蛾膳】(がぜん)の門を潜るところだった。
身分証明となる名前の彫られた木の板切れを憲兵に見せて、おかしいところがなければ通される。
木の板、名前は【木判】(もくばん)というが、これには彫った文字に色がつけらていてどこの町からきたか判る様になっている。
普通は、色と町名が合っているかを確認するため、持ち主にいくつか質問をしてから通される。
しかし、蛾膳の関所はチラ見程度で済ませ、旅人や商人を素通りさせていた。
これに納得がいかない弥夜は憲兵に文句を言おうと、門を潜る足を止めようとした。
「何でちゃんとやらないんですかね? ちょっと一言注意を――」
それを弥昼が慌てて遮った。
「ああ! 止めて! 本当にやめて! 迷惑デス!」
「何で迷惑なんです!?」
「ったく、先輩は寺の常識しか知らないんすかぁ?」
呆れたように、弥昼はその赤い髪をぽりぽりと掻いた。
「蛾膳は貿易目的の商人がたくさんやってくる町なんす。うちのしがない町と違って、たくさんの人の出入りがあるんすよ~? そんなん一々見てらんないっしょ? それにその町の事情には首突っ込まない方がいいんすよ。俺らはただの旅人です。放っておくのが一番です!」
「もっともらしい事を言っていますけど、たくさんの人の出入りがあるからこそ、警備はしっかりすべきです!」
その正論を聞いた弥昼gはついイラっときて暴言を吐いてしまった。
「この、朴念仁!」
「はあ!?」
この一言に弥夜が反応しないわけもなく
「テメッ! 誰に口聞いてんですか!? ああ!?」
「先輩です~! 先輩以外に朴念仁なんて誰がいるんすかぁ?」
「この……っ! それが先輩に対する態度ですか!? 改めなさい!」
「うぜえよ! 今は旅してんだ! 先輩も後輩もねえだろうが!!」
案の定、喧嘩がおっぱじまってしまった。
「キミ達やめなさい!」
ギャイのギャイのと言い争う声を聞きつけて憲兵が慌てて仲裁に入る頃には、すでに多くの野次馬が二人を囲んでいた。
その群れを見つめるように、薄茶色のおさげ髪の十代半ば頃の清楚そうな少女が買い物籠を持って立っていた。
その肩にはインコのような青い鳥が乗っている。
「やれやれ! 兄ちゃん達!」
「赤毛のニイちゃん見せたれよ~!」
野次に乗せられて、弥昼は弥夜を挑発した。
「おら! かかってこいよ!」
「こいこい!」と手で合図をし、リズムをとる弥昼に対し、弥夜は静かに俯いていた。
そして、口元に笑みを浮かべると、槍に被せている布をするりと脱がし、顔を上げた。
「確かにそうですね。私達は今旅をしているんです。なら……旅の途中の事故死なんてザラですよね?」
「ごめんなさい」
弥夜は信じららないスピードで即座に土下座した。
『なんかすんません!』
その後に続いて、何故か野次馬連中も一斉に土下座した。止めに入っていた憲兵ですらも謝っていた。
それ程、弥夜の悪魔のような冷徹な微笑は恐ろしかったらしい。
「解ればいいんです。解れば」
弥夜は言って槍先に布を被せた。そんな様子を、おさげ髪の少女は感慨深く見つめ、呟いた。
「ふ~ん……」