モンスターハンター“敬憧の背中”
既に誰も存在しない場所へ火炎液を吐き出す『イャンクック』。
ニトロの動きに、全く対応できていない。
強く踏み出した左足に全体重を掛け、右膝を腰元まで持ち上げる。
それと同時に、背中から抜き放った大剣を、右肩に担ぎ上げる。
それは、完璧な動作だった。
大地から左足へ、左足から腰へ、腰から背中へ、背中から肩へ、肩から腕へ、そして腕から大剣へと、淀みなく力を伝える。
少しのパワーロスもない、洗練された動作だった。
何万回、何十万回と、今まで大剣を振るってきたのだろう。
ある種の美しさすら持ったその動作は、少年の練習量の多さ、濃密さを雄弁に物語る。
ドスン!、と地響きを立て右足を地面に下ろす、否、叩き付ける。
腕と剣だけをその場に残し、ニトロは剣を振り切った。
既に身体は剣を振り切っている、だが肝心の大剣はまだ、少年の右肩の上に残ったままだ。
少年の、バネそのものな全身の筋肉がピーンと緊張し、軋む。
つまりはデコピンの要領だ、相手にヒットさせる部分を最後まで残し、他の部位の動作を先に終わらせることによってタメを作り、ただ普通に振り下ろすよりも、速度と威力を増加させるわけだ。
ニトロはワンテンポ遅れて枷を外す、解放された両腕と大剣は、猛スピードで空気を切り裂き直進する。
ゴォォウ!!
速い、尋常ではない。
遠くから見ていたヒューズでさえも、その大剣の軌跡を見切ることはできなかった。
スピード×重さ=破壊力。
超重量の大剣が、目に見えない速さで振り下ろされる。
その破壊力は、たやすく【怪鳥の甲殻】を突き破り、肉を裂き、鮮血を飛び散らせた。