蛞蝓~namekuji~
やがて、私は帰宅恐怖症に近いモノを、感じるようになり、会社で夜を明かすことが多くなった。家に帰ると、特別な危害は加えてこないが、あのべとべとのからだをすり寄せてきて、蛞蝓はうじうじべとべと甘えてくるのである……

 私は、身震いした。

 どうにかして、あの蛞蝓を、駆除しなければならない。

 もっと、早くに手を打つべきだった……
 珍しさも手伝って、情をかけすぎた……
 私は反省とも自戒ともつかぬ思いに至った後、蛞蝓の駆除について真剣に考えた。
 警察に連絡しては、あの巨大な蛞蝓が世間の知れるところとなる。
 そうなれば、世間に公表され、マスコミに追いつめられて、後々厄介なことになる……
 誰にも知られずに、蛞蝓を駆除する方法……
 私は会社の小さな休憩室に、小さくうずくまりながら、考えた。

 翌日、私はしばらくぶりに、自分の家に帰った。

 家の中で私が見たモノは、信じがたい光景だった。

 なんと、蛞蝓は増えていたのだ。

 小さな蛞蝓が、二匹ほど、うじうじうじうじうじうじうじうじうじと、這い回っているではないか……

 ここは、私の家だ。

 蛞蝓に占領されるなんて……エリートの道を真っ直ぐに走って来た私に、なんという馬鹿げた事件だ。

 私は恐怖と、憤怒に塗り込められた。

 それから私は、迷いなく塩を大量に買い込んだ。
 そうして、強大な蛞蝓を切り刻む為に、大きな包丁を購入すると、深夜ためらうことなく、巨大な蛞蝓と、二匹の小さな蛞蝓を切り刻み、塩をたっぷりとかけた。

 それから、私は、身も心も軽くなって、すがすがしい気持ちでシャワーをしてから、出勤した。
 二,三日もすれば、塩によって蛞蝓は溶けて跡形もないだろう……
 その後は、業者を呼んで掃除させればいい。
 私に安泰の日々が戻ってくる。
 私は、上機嫌で、いつになく仕事に熱が入った。
 


 その日の夕暮れ時だったろうか。
 神妙な顔をした男が、私に面会を求めてきた。
「あなたのマンションで、大変なことが起こりました。署まで同行願えますか?」

 ああ、あの巨大な蛞蝓のことか?あれは駆除したはずなのに……生き返りでもしたのだろうか?
 私は事情を聞くべく、男の後に従った。
 山積みにされた仕事は、あと、五分の二ほど残していくのは、気がかりなのだが……






 翌日の新聞には、エリート商社マン妻子を殺害という記事が大きく取り上げられていた。 残忍な行為の後、塩を多量に死体に盛り上げていたことから、宗教と何らかの繋がりもあるのでは?と、関連性もあわせて調べているという……
                                           
      
                   おしまい

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