恋する猫は、月の下~花の名のキミ~
得体の知れない恐怖が、あたしをどこか知らない場所へ導こうとしている気がした。

がくがくと手足が震るえ冷たくなったあたしの背中に、ふわりと暖かなぬくもりが降りてきた。


「何、考えてるの?」

恵都が、ひょいとあたしを持ち上げ、そのまま自分の瞳に近づけた。

額をつきあわせたまま、恵都はあたしの瞳をのぞき込む。

恵都の柔かな髪の毛が、あたしの鼻先をくすぐった。


「恵都のこと、考えてた…」

観念したようにあたしがつぶやくと、恵都はそのままあたしを胸に抱きなおし、背中を撫でた。

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