ヘヴンリーブルー
4.ディックバードの船員たち
 目が覚めて、見慣れない部屋をきょろきょろと見回した。昨日までとは違う目覚め。

「そっか…船の中なんだ」

 ふぅっと小さな溜め息をつく。

 あ、気持ち悪くない。

 昨日レイズが用意した薬が効いたのだ。その薬は驚くほどの眠気を誘い、フィスは倒れるようにベッドに潜り込んだのだった。

「で、船の中(ここ)で何してろっていうのよ」

 呟きながらフィスはキャビンを後にした。

 デッキでは何人もの船員が笑い声を上げていた。皆生き生きとした顔をしている。

「おはよう、お嬢さん。随分と遅いお目覚めだね」

「おはよう。…ええと……アジアの…」

「まだ自己紹介してなかったな。俺の名前はウェイ・オン。以後お見知りおきを」

 ウェイ・オンはそう言って白い歯を見せた。

「私はフィス。よろしくね」

「なぁお嬢さん、良かったらこっちで話でもしないかい? みんなあんたに興味津々だ。まあ、俺もだけどな」

 ウェイ・オンの背中越しに幾つもの視線がこちらを伺っていた。

「見た目はあんなだけど、いい奴らだぜ」

 今までは接したことのないような人たち。仕事の合間の休憩なのだろう。薄汚れた格好でカードゲームに興じる者や、タバコを吸いながら遠くを見つめる者。真剣な顔をして話し込んでいる者。自由に育てられてきたとはいえ、こんな生活の仕方があるなどとは知らなかった。できるだけ普通に…という概念は、国王の娘としては少しだけ民衆に近い…ということだったのだ。

 まだ、私の知らない世界がたくさんある…。

「どうだい? それとも俺たちみたいに汚い人間とは話もしたくないかい?」

 まるで試すように、ウェイ・オンは再び白い歯を見せて笑った。

「いいえ。お話しましょう」

 キリッとした表情で正面を向いたフィスの姿を見て、ウェイ・オンは皆に振り返りガッツポーズを見せた。その瞬間、男たちは『でかした、ウェイ・オン!』とでも言いたそうな笑顔を浮かべフィスを迎え入れる準備を始めた。

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