ヘヴンリーブルー
 そんなとき、ブリッジから降りてくる忙しない靴音が聞こえた。音が鳴り止むのと同時に姿を現したのは、レイズが神よりも正しい目を持つと言ったあの男だった。

「何を泣いているんだい?」

 焦ったような口調でフィスに問いかける。

「あなたは、何を?」

「俺は船長に任されて、今この船の舵取りをしているんだ」

 そう答えながらも手は適当な長さのロープを必死に探している。

「波が強くて思うように舵が取れない。ロープで固定でもしなけりゃ勝手に反対方向まで動いちまう」

 ちょうどいい長さのロープを探し当てたのか、男は再びブリッジへ向かう階段を駆け上がろうとしていた。

「…けて」

「なんか言ったかい?!」

 みんなを。レイズを。

「助けて…!」

 本当はそんな余裕すらなかったのだろうが、男はフィスの言葉に笑みを浮かべた。

「なぁに、心配いらない。レイズ船長には敵わないが、昔俺の舵取りは天下一品だって言われてたんだ。船長は今俺を信頼してくれてる。ただそれだけでいい。だから幾つになってもこの船を下りるのが嫌なんだろうなぁ。それより、あんたは早くキャビンに戻っていた方がいい」

 男の諭すような言葉でフィスは重い腰を上げる。その姿を見届けると、男はブリッジを駆け上がっていった。

 今できることは、みんなの負担にならないことだ。キャビンに戻ろう。きっとみんな大丈夫。―――大丈夫。この嵐に負けるはずはない。だって、あんなにも強い絆があるのだから。

 ようやくキャビンに戻ったフィスは膝を床に、肘をベッドの上に置き両手を組んだ。

 神様、お願いします。みんな無事で、この嵐が早く過ぎてくれますように。神様―――――。私には、祈ることしかできないけれど。

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