ヘヴンリーブルー
 レイズの大きな笑い声が船内に響く。その隣でウォレンはブスっとした顔を浮かべていた。

「それでウォレン様が文句を言ったら、フィス様が『みんな我慢できたのに、あなたはできないの?』って言ったんですよ」

「で、ウォレンは何と?」

「俺たちをじろっと見回して『お前らはこんな手荒い手当てに文句すら言えないのか?! 誰一人として?!』と」

 レイズはそれを聞き、腹を抱えて笑っている。周りで聞いている船員たちも、そのときの情景を思い出しながら笑いを一生懸命堪えていた。

「あんなのは手当てと言わない」

 不機嫌な声が聞こえ、レイズも込み上げる笑いを堪えながら聞く。

「それで手当てされるのを投げ出したのか?」

 その言葉にウォレンがレイズを睨み、ぼそっと口を開いた。

「最後まで我慢したさ。お姫様の自信を削がないためにな」

「そうか。それは良かった。よくやった、ウォレン」

 それでもこれ以上込み上げてくる笑いを堪えることは難しいらしい。ウォレンは諦めたのかゆっくりと席を立つ。

「お前も身をもって体験してみるといい。お姫様を呼んできてやる」

 そう言って歩き出すウォレンの背中を追って、船員たちもその場所を後にした。後姿を見送った後、レイズは再び鼻で軽く笑った。

 居場所を見つけた自信…? 居場所くらい、今までだって少しくらいはあっただろう。でももし…もしなかったのだとしたら? 一体今までどんな生活を送ってきたっていうんだ。

 両腕を組んだままそんなことを考えると、小さなため息がレイズの口から漏れた。

 ディックバードでの生活にフィスを引っ張り込んだのは自分自身だというのに、オルドアに残された家族のことを考えるとほんの少しの自責を覚えるのだ。

 まあ、いい。所詮ずっとこの船にいるわけでもあるまい。そのうちまた帰るのだから。フィスに絶望に満ちた顔をさせていた、オルドアに―――。



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