ヘヴンリーブルー
「綺麗…」

 小さく呟いたフィスの横顔を、レイズは満足げな笑顔で見つめていた。

「あの音楽を演奏しているのはこの町の住人だ。みな演奏などしたこともなかったらしいが、今のザイラスが必死で練習させたらしい」

「それはディックバードがここにやってくるのを迎えるため?」

「なのだろうな」

「ザイラスさんは誰なの?」

「この町の町長だ。この町はどの国にも属していないから、まあオルドアで例えるなら国王みたいなもんだ」

「それにしては随分飾り気がないのね」

「俺は、ああいう飾らないスタンスが好きだ」

 住民に囲まれてニコニコと笑っている姿を眺めながら、しかしはっきりとレイズは言った。

「そしてユナの父親でもある」

「え…?」

 もう一度ザイラスに視線を向ける。

 そういえば目の辺りがどことなく似ているかもしれない。

 フィスはさっきユナが言っていた言葉を思い出す。

 『あなたに救っていただいた命ですもの』と確かにそう言っていた。

「あなたがザイラスさんの命を救ったの?」

「ん? ああ…」

 一瞬なぜその話を知っているのかと言いたげな顔を見せたレイズだったが、先ほどのユナとの会話をフィスが聞いていたのだろうということを理解したようだった。

「遠い、昔の話だ」

 そう言ってレイズは酒を口に運び、遠い目をしてどこかを見つめる。

 こういうときのレイズには近寄りがたい。時々彼は遠い目をして何かを考える癖があることをフィスは知っていた。

 自分の立場を隠していながら一度だけレイズに、彼の過去を聞いたことがある。そのときもそうだった。

 『あなたは何者なの?』という問いに、彼は『ただの船長だよ』と答えた。そう言いながら海を眺める横顔を見て、それ以上何も聞けなくなってしまったのだ。

 今の状況はあのときによく似ている。レイズはあまり自分のことを語りたがらない。それはどうしてなのだろう…。


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