ヘヴンリーブルー
17.賭け
「今日は早起きだね、お嬢さん」

「ええ」

 朝焼けの美しさをレイズに教えてもらった日から、時々こうして早起きをして登ってくる太陽を見るのがフィスの癖になった。

 ポート・ウェインを出航してからすでに一週間が経とうとしている。途中荷物を降ろすだけの港に立ち寄ったが、フィスが陸に降りることはなかった。

 あと数日で次の港に到着するということは船員たちの話を聞いてフィスも知っていたが、それがどんな場所なのかはわからないままだった。
 
 一体ここは今どこで、オルドアからはどのくらい離れたところなのかしら。

 時間の感覚さえままならないような状態で、今までになく開放的な気分で毎日を過ごしていたのだから、この場所がどこかなどわかるはずもないのだが。

「この間イルカは見れたのかい?」

「遠くから見ただけ。船の近くには寄ってこなかったわ」

「それは残念だったな」

「ええ。でもチャンスはまだあるわ。毎日ここからこうして探してるのよ」

 そう言いながらフィスは目をキョロキョロさせた。

「そりゃぁいい! そんな風に待ち構えてたら、イルカたちも取って食われるかと思って水面に顔を出せないかもな」

 ニコニコしながら言う一人の船員にフィスは両頬を膨らませて見せた。

「酷い言い方ね、ロッド。私はただ純粋にイルカを近くで見たいだけよ」

 数回顔を合わせたことのある船員たちの名前はほとんど覚えていた。もっともっとたくさんの人の話を聞きたいと思ったのだ。

 あの嵐の夜以来通りがかる船員には積極的に声をかけたし、自らデッキへ足を運んでみんなの輪の中に加わった。

 ポート・ウェインを離れてからは特にそうだ。自分に迫るタイムリミットを感じているからなのだろうか。とにかくいろいろなものを、自分が持っていないものを持っている人間から学び取ろうと強く思っていた。

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