ヘヴンリーブルー
「じゃあ賭けをしよう。次の港に着くまでの間にイルカを間近で見ることができるかどうか」

「見れなかったらどうなって、見れたらどうするの?」

「そうだな、見れなかったらお嬢さんの負けってことで、次の港で仕入れた食材で豪華ディナーの時には一品何か譲ってもらおうか」

「あら、そんなことでいいの? 簡単だわ。で、見れたら何してくれるの?」

「うーん、何がいいかな。何かあるかい?」

 そう問いかけられ、考えながらふと上を見上げると相も変わらずティムズが望遠鏡を片手にメインマストの上でのんびりと海を眺めていた。

「じゃあ…あそこに私を連れて行ってよ」

 そう言ってフィスが指差したのはティムズが居座るメインマストの上部だった。

「あんなとこに行きたいのか? でもそれはちょっとまずいな」

「どうして?」

「あんなところに連れて行ったら俺が船長に怒られる」

「あら、これは賭けよ? それもあなたが言い出したことだわ。レイズは関係ないでしょう?」

「でもなぁ…」

「ダメよ、ロッド。もう決めたわ。約束ね」

 フィスは悪戯っぽい笑顔をロッドに向けた。それにはロッドも観念したらしく、肩をすくめながら諦めの笑顔と頷きをフィスに返した。

「ずるはなしよ。私がデッキにいないときにイルカが見えたら必ず呼んでちょうだいね」

「海の男は嘘をつかない。お互いフェアで行こうぜ」

 そう言って二人は手のひらを軽く合わせた。

 その賭けは瞬く間に船上に広がり、今度は船員たちがフィスとロッドのどちらが勝つかを予想して楽しむような状態になっていた。

「お前はどうしてそうくだらないことをしたがるんだ?」

 一日のうちのほとんどをデッキで海を眺めながら過ごしているフィスの姿を見かねて、レイズがそう問いかける。

「だってロッドが言い出したのよ。賭けってなんだか面白そうだったから」

「だからと言って…メインマストに登りたいだなどと言ったそうじゃないか。あんなところに登って何になる。やめておけ」

「いやよ。登ってみたいわ」

「大体危ないだろう。ただでさえ落ち着きのないお前があんな高いところに登るのは無謀だ。俺が許可しない」

 フィスも頑なに譲らなければ、レイズもまた同じだった。
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