ヘヴンリーブルー
数日後。

「残念だったな」

 そう言ってロッドはフィスの肩をポンポンと叩く。視線の先には次の港町が随分近くに見えるようになってきていた。

「まだチャンスはあるわ」

「おお、負けん気が強いな。ま、あと十五分もすりゃ港に着いちまうが気が済むまで眺めてたらいい。じゃ、俺は仕事があるから行くよ」

 そう言ってロッドは姿を消した。

 結局イルカの姿を間近で見ることは叶わず次の港に着くことになるようだ。

 それでもまだ恨めしそうに水面を見つめるフィスの姿を、船員たちは仕事の合間合間に温かな目で見守っていた。

「錨を下ろせー!!」

 それから二時間ほどで荷物の積み下ろしは完了した。

 その後、陸でのほんの少しの自由な時間が与えられ、船員たちは一気に船を下りて行った。

 フィスはレイズとウォレンと三人で街の中を歩いていた。

 この港町はポート・ウェインほど船乗りたちを迎える雰囲気はなかったが、それでも店などはポート・ウェインよりも豊富で、目を引くものが所狭しとウインドウ越しに並べられていた。

「見て見て、これ可愛い! ねえ、レイズ、そう思わない?」

 何度目かのその声にレイズは小さなため息をついた。

 それは小さなつもりだったのだが、フィスにはそうではなかったらしくしっかりと聞こえてしまっていたらしい。

「もう、どうしてため息なのよ。ね、ウォレン、可愛いわよね?」

 次に矛先を向けられたウォレンも頷くことしかできないでいた。

「二人とも何なのよ、もう。そんなんじゃ女の子にもてないわよ?」

「そんなこと考えなくても女が寄ってくるから問題ない」

「自意識過剰。女心をわかってないわね」

 そう言ってフィスは少し先を歩き出した。

「あいつが女心をわかってるとはね。そのほうが驚きだ」

「まったく同感だ」

 フィスの後姿を目で追いながら、レイズとウォレンは苦笑いを浮かべた。

「ところで、リブレフォールに何か動きは?」

 ふとレイズが真顔でウォレンに問いかけた。

「今のところ何も」

「…嵐の前の静けさってやつか」

 再びため息をつきながらタバコに火をつける。

「おい」

 煙を勢いよく吐き出したところでウォレンの声に視線を上げる。ウォレンの視線は先ほどフィスが歩いて行った先に向けられていた。

 ウインドウの中を覗くことに真剣になっているフィスの背後に数人の影が見える。声をかけられたフィスは驚いて振り向くと、何度も誘いを断っている様子でしきりに首を横に振っていた。

 ウォレンがチラリと視線を向けると、レイズのそれと重なり合う。レイズは仕方がないといった感じで吸い始めたばかりのタバコをウォレンに渡すと、フィスの元へ向かった。
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