ヘヴンリーブルー
「お前がボーっとしているからああいうことになるんだ」

 先ほどからずっとレイズの愚痴は続いている。

 その不機嫌さとは正反対にフィスはとても機嫌がいい。

「ああいうの、初めてよ。本当に声かけてくる人なんているのねぇ。驚いちゃった」

 フィスの機嫌がいいのは知らない人間に突然誘われるという初めての体験をしたから。そしてレイズの機嫌が悪いのは、それを止めに入ったときに相手の男たち数人に吐かれた暴言と、状況をまったく理解していないフィスの天然な言動に我慢ならないからに他なかった。

「大体なんだってこんなボーっとした女に声をかけようと思うのか、それ自体理解できない。世の中間違ってる」

「あら、私だって少しくらい魅力があるってことよ。そうでしょ?」

「そう思うんだったらさっさと一緒に行けばいい。助けるんじゃなかった」

「酷い! どうしてそんなこと言うの?」

 ……どう考えても、恋人同士の会話としか思えん。お互い気付いていないところが問題だとは思うが…。

 二人のやり取りを見てウォレンは大きなため息をついた。

「ほら見ろ。ウォレンだって呆れてる」

 お前にもな…。

 心の中でウォレンがそう思っていることをレイズは知る由もなく、それから数十分もの間キャビンの一室では同じ口論が繰り返されていた。
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