ヘヴンリーブルー
3.航海~ディックバード~
「錨を上げろー!!」
誰かのそんな叫び声で、船員達が一気にロープを引き上げ始める。フィスはその様子をデッキに立ち、眺めていた。住み慣れたオルドアの地は時間が経つごとに遠くなり、自分が取ってしまった行動にほんの少しの後悔を覚える。
「もう、帰りたくなったのか?」
ヘヴンリーブルーの瞳の男がそう問い掛けた。
「どこへ行っていたの?」
「おかげさまで船長は忙しいんだ」
「…そう」
男から視線を逸らしたフィスの瞳は、遠くに見える生まれ育った地を見つめている。
「生まれ育った地を離れるのはそんなに哀しいか? 別に一生の別れでもあるまいし」
タバコを取り出し、片手で風を避けながらその先端に火をつけるのは、名前すら知らない男だ。
どうして、差し出された手を拒まなかったのだろう…。信用できる人間かどうかも解らないのに。
「名は?」
「…フィス」
「フィスか。覚えておく」
「あなたは?」
「栄えあるこのディックバード号の船長だ。港にはいくつもの船が停泊していたが、ディックバードが一番いい船だっただろう?」
男は嬉しそうに目を細めた。
「あなたの名は?」
「レイズ。そう呼んでもらっても、船長と呼んでもらってもどちらでもいい」
「レイズ…。覚えておくわ」
「ああ」
「あなたは、どうして私をこの船に?」
その時遠くから彼を呼ぶ声が聞こえた。レイズはその声に反応すると、持っていたタバコの火を消す。
「フィス、そういう面倒な話は後にしてくれ。仲間が呼んでいる」
もう一度催促の声が聞こえる。
「今行く!」
振り向いてそう答えると、レイズはもう一度フィスに向き直った。風に踊るフィスの長い髪を指に絡ませて言う。その瞳にフィスは囚われていた。
「何もかもが絶望に満ちたような顔をするな。『未来は自分で切り開け』」
「それは…?」
「俺の好きな言葉だ」
レイズは仲間の元へ走り出した。その後姿をフィスはじっと見つめていた。
誰かのそんな叫び声で、船員達が一気にロープを引き上げ始める。フィスはその様子をデッキに立ち、眺めていた。住み慣れたオルドアの地は時間が経つごとに遠くなり、自分が取ってしまった行動にほんの少しの後悔を覚える。
「もう、帰りたくなったのか?」
ヘヴンリーブルーの瞳の男がそう問い掛けた。
「どこへ行っていたの?」
「おかげさまで船長は忙しいんだ」
「…そう」
男から視線を逸らしたフィスの瞳は、遠くに見える生まれ育った地を見つめている。
「生まれ育った地を離れるのはそんなに哀しいか? 別に一生の別れでもあるまいし」
タバコを取り出し、片手で風を避けながらその先端に火をつけるのは、名前すら知らない男だ。
どうして、差し出された手を拒まなかったのだろう…。信用できる人間かどうかも解らないのに。
「名は?」
「…フィス」
「フィスか。覚えておく」
「あなたは?」
「栄えあるこのディックバード号の船長だ。港にはいくつもの船が停泊していたが、ディックバードが一番いい船だっただろう?」
男は嬉しそうに目を細めた。
「あなたの名は?」
「レイズ。そう呼んでもらっても、船長と呼んでもらってもどちらでもいい」
「レイズ…。覚えておくわ」
「ああ」
「あなたは、どうして私をこの船に?」
その時遠くから彼を呼ぶ声が聞こえた。レイズはその声に反応すると、持っていたタバコの火を消す。
「フィス、そういう面倒な話は後にしてくれ。仲間が呼んでいる」
もう一度催促の声が聞こえる。
「今行く!」
振り向いてそう答えると、レイズはもう一度フィスに向き直った。風に踊るフィスの長い髪を指に絡ませて言う。その瞳にフィスは囚われていた。
「何もかもが絶望に満ちたような顔をするな。『未来は自分で切り開け』」
「それは…?」
「俺の好きな言葉だ」
レイズは仲間の元へ走り出した。その後姿をフィスはじっと見つめていた。