水鏡
2
それなのに、少年の瞳は、湖の美しさも、さんざめく花たちも風も空も雲も目には入らないようでした。
風たちは相変わらず、無邪気に少年を取り囲んでは通り過ぎます。
どれほどの時間がたったでしょう。
湖の向こうの樹の陰から、少女が躍り出てきました。
真っ白なレースのたっぷりあしらった、ドレスのようなワンピース。
くるくると巻き毛のロングヘアーを、ドレスと同じ白い布でできた帽子で包んでいました。
愛くるしい栗色の瞳は、少年を見つけて大喜びしたのです。
少年に駆け寄ると、息を切らしながら言いました。
「どこから来たの?」
「……」
「どうやってここにきたの?」
「……」
「お家の人は??迷子なの??」
「……」
「お返事を忘れたの?」
少年は、ゆっくりと少女を見ると、
「ぼくは、ロボットなんだ。だから家はない」
感情を持たない応え方に、少女は気を悪くするでもなく、
「まあ、ロボットなの?綺麗なロボット。なんて綺麗に作ってもらったのかしら。素敵ね」
少女は、感嘆のため息をつきながら、少年を見つめました。
「……」
「ぼくが、気味悪くないの?」
「どうして?」
「ロボットだって言ってるのに」
「だって、綺麗なんだもの」
「綺麗?ぼくが?」
「まあ、お耳の機能が壊れていたの?さっきから綺麗だって言ってるのに」
少女はちょっとだけ、怒ったふりをして少年を軽くにらみました。
少年は、ちょとだけ、うろたえました。
だって、少年にしてみれば、少女のほうこそ、今まで見たどの女の子よりも輝いていたからです。
「君だって……」
少年は言いかけて、ちょっとドキドキする自分に驚いて、何をどうしていいのかわからなくなってしまいました。
「あら……」
少女はニコニコしながら、少年をのぞき込みました。
「あなたの瞳に、私が映ってる」
少年は、わけがわからないままに、少女を見つめていました。
だって、少女の瞳の中には、今までみたこともない、照れくさそうな自分の姿が映っていたからです。
「ぼくは、ロボットで、感情なんかないはずなのに……」
「あら、それは、間違いよ」
「……?」
「最近のロボットは進んでるのよ。感情だってインプットできてるわ」
少女は、無邪気に笑います。
その笑顔がぽーーんと、少年の心に入り込みました。
今まで、誰も入れることがなかった、誰も入ってはこなかった、少年の空っぽの心に入り込みました。
少年は、空っぽの心に、ぽうっとなにか温かいものが染み込んできて、それがからだ全体を包み込むようでした。
風たちは相変わらず、無邪気に少年を取り囲んでは通り過ぎます。
どれほどの時間がたったでしょう。
湖の向こうの樹の陰から、少女が躍り出てきました。
真っ白なレースのたっぷりあしらった、ドレスのようなワンピース。
くるくると巻き毛のロングヘアーを、ドレスと同じ白い布でできた帽子で包んでいました。
愛くるしい栗色の瞳は、少年を見つけて大喜びしたのです。
少年に駆け寄ると、息を切らしながら言いました。
「どこから来たの?」
「……」
「どうやってここにきたの?」
「……」
「お家の人は??迷子なの??」
「……」
「お返事を忘れたの?」
少年は、ゆっくりと少女を見ると、
「ぼくは、ロボットなんだ。だから家はない」
感情を持たない応え方に、少女は気を悪くするでもなく、
「まあ、ロボットなの?綺麗なロボット。なんて綺麗に作ってもらったのかしら。素敵ね」
少女は、感嘆のため息をつきながら、少年を見つめました。
「……」
「ぼくが、気味悪くないの?」
「どうして?」
「ロボットだって言ってるのに」
「だって、綺麗なんだもの」
「綺麗?ぼくが?」
「まあ、お耳の機能が壊れていたの?さっきから綺麗だって言ってるのに」
少女はちょっとだけ、怒ったふりをして少年を軽くにらみました。
少年は、ちょとだけ、うろたえました。
だって、少年にしてみれば、少女のほうこそ、今まで見たどの女の子よりも輝いていたからです。
「君だって……」
少年は言いかけて、ちょっとドキドキする自分に驚いて、何をどうしていいのかわからなくなってしまいました。
「あら……」
少女はニコニコしながら、少年をのぞき込みました。
「あなたの瞳に、私が映ってる」
少年は、わけがわからないままに、少女を見つめていました。
だって、少女の瞳の中には、今までみたこともない、照れくさそうな自分の姿が映っていたからです。
「ぼくは、ロボットで、感情なんかないはずなのに……」
「あら、それは、間違いよ」
「……?」
「最近のロボットは進んでるのよ。感情だってインプットできてるわ」
少女は、無邪気に笑います。
その笑顔がぽーーんと、少年の心に入り込みました。
今まで、誰も入れることがなかった、誰も入ってはこなかった、少年の空っぽの心に入り込みました。
少年は、空っぽの心に、ぽうっとなにか温かいものが染み込んできて、それがからだ全体を包み込むようでした。