水鏡
 少年はひたすら少女が自分のところにもう一度帰ってきてくれることを願いました。



 でも、少女は帽子をつかんだ途端に、そこで、力が尽きたかのように、湖にゆっくりと沈んでいきました。



 少年は、叫びながら、湖に飛び込んでいました。

 ほんのつかの間のいっときでも、少年にとって、少女の愛くるしい笑顔がすべてとなっていたのです。



 少年は、いっしょうけんめい、湖に沈んでいく少女めがけて泳ぎます。

 けれども、どんなにがんばっても、前には進みません。

 それどころか、少女とはずいぶん離れたところで、沈んでいきます。

 

 『ボクノカラダハ、ボウスイカコウガシテナカッタンダ・・・』



 ここの湖はとても、とても、澄んでいたので、少年と少女の姿がゆっくりと沈んでいくのをみることができました。





 そのとき、バシャン、と、大きな音がして、辺りは闇に包まれてしまいました。
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