水鏡
 「プログラムは、完了です。息子さんには人間の感情が戻りましたよ。ロボット……われわれはそれを、マリーと呼んでいます。マリーはいつも完璧な働きをしてくれますよ。人間よりも思いやりに満ちていて、感情の芽を出せないでいる今の子ども達に『愛』を目覚めさせてくれます」



 医師の説明を聞きながら、少年の親達は安堵したのでした。



「ここは、小さなディオラマです。うまく愛情を表現できない子ども達の治療の現場として活用されています。誰かと心を通い合わせることがいかにわれわれ人間にとって必要なことか、いまさらながらに思い知らされます。今回、息子さんは私達が思う以上に、少女に強い友情を示してくれました。少女を救うために、湖に飛び込む例ははじめてですよ」

 

 気を失っている少年を頼もしく見つめながら、医師は言いました。



「少女にもう一度会いたいといったらどうしましょう……」

「大丈夫。軽い催眠状態で、見せたディオラマですから。ベッドで目覚めれば、夢だったと思うでしょう。そこから先は、お二人の努力ですよ」



 医師の説明に、少年の両親は深く頷きながら帰りました。

 

 少年が運ばれていきます。

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