寂しがりやの猫
なんだかまた気まずくなってしまい、私と田村は その後 ほとんど話さなかった。


暫くして酔った市川がやって来て、田村を無理矢理どかし、私の隣に座る。


「奈都さぁん、写真 撮っていいですか? いつものスーツも素敵ですけど、Tシャツ姿もセクシーです!」

酔っているせいか市川は 饒舌になり、べらべら喋りながら 写真をバシャバシャ撮り始めた。


最初は 仕方なく付き合っていたが、段々市川が私の胸元や腰の辺りをアップにして撮り出したので ちょっと止めてよ、と手で制した。

「もう 寝るから止めて」

「あー あとちょっとだけ」

その時 バスが揺れて私は膝に乗せていたバックを床に落としてしまった。 慌てて拾おうと下を向くと急に胸元に向けてシャッターを押された。


「ちょっと!何撮ってんのよ!消去しなさいよ」

私は ムカついて市川のデジカメを取り上げようとした。


市川が 嫌だ、と抵抗すると 後ろから田村が来てデジカメを取り上げて写真を見た。


「おま… 何撮ってんだよ」


仕方なく観念した市川が私と田村に写真を見せた。
朝からずっと望遠で私ばかりをとっていたらしい。

VネックのTシャツから覗く胸の谷間や、荷物を置くために背伸びをした時Tシャツの裾から背中が出ているのが写っていた。


「ばかだなあ。お前!」

田村はゲラゲラと笑い出した。


「も~ 消去するからね!」


「いや、俺にも焼き増ししてくれ」

田村がデジカメを私から取り上げる。


「ばか!」

ぎゃあぎゃあ 騒いでいるうちにバスは到着してしまった。

なんだか 高校時代の修学旅行を思い出す。

田村といると、いつの間にかそんな自分になれた。
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