桜ものがたり

(光祐さま、祐里は、光祐さまが良家のお嬢さまとご結婚されても、

いつまでもお屋敷でお仕えさせていただきます)

 祐里は、口には出さずに応えていた。


「祐里、少し冷えて来たから部屋に入ろう」

 光祐さまは、月が雲に隠れてしまった闇夜を見上げて、祐里の手を引くと、

格子の硝子扉を閉じた。

 祐里の手は、柔らかく心地よく感じられた。

「光祐さま、お茶が冷めてしまいました。温かいお茶をお持ちいたします」

 祐里は、時間が経って冷めた紅茶を気にかけた。

「お茶はいいよ。それよりも少しでも長い時間、祐里と一緒にいたい」
 
二人は、長椅子に座り静かに寄り添った。

 何も話さなくてもこころが満たされ、しあわせな時間が緩やかに流れていった。
< 13 / 85 >

この作品をシェア

pagetop