桜ものがたり
(光祐さま、祐里は、光祐さまが良家のお嬢さまとご結婚されても、
いつまでもお屋敷でお仕えさせていただきます)
祐里は、口には出さずに応えていた。
「祐里、少し冷えて来たから部屋に入ろう」
光祐さまは、月が雲に隠れてしまった闇夜を見上げて、祐里の手を引くと、
格子の硝子扉を閉じた。
祐里の手は、柔らかく心地よく感じられた。
「光祐さま、お茶が冷めてしまいました。温かいお茶をお持ちいたします」
祐里は、時間が経って冷めた紅茶を気にかけた。
「お茶はいいよ。それよりも少しでも長い時間、祐里と一緒にいたい」
二人は、長椅子に座り静かに寄り添った。
何も話さなくてもこころが満たされ、しあわせな時間が緩やかに流れていった。