桜ものがたり

大蛇

 その翌日には、旦那さまが出張から戻って、光祐さまの帰省を祝う昼食会が

催されることになった。

 あやめの指示の下、お屋敷の隅から隅まで、奉公人総出で磨きあげられた。

 紫乃は、朝から腕を振るい、祐里も台所を手伝った。

 祐里は、紫乃から料理を伝授されて、めきめき腕を上げている。


 光祐さまは、台所の椅子に腰かけ、紫乃と祐里が料理を作る様子を眺めていた。

「坊ちゃま、殿方がお台所に入るものではございません。

 旦那さまがご覧になられたら、紫乃がお叱りを受けてしまいます」

 紫乃は、心持ち嬉しそうに困った顔をして注意する。

「大丈夫だよ、紫乃。仲睦まじい父上さまと母上さまは、お二人で歓談中

なのでお邪魔にならないように、そして、あやめたちの大掃除の邪魔にも

ならないように配慮してここに居るのだから。一番の目的は、祐里の料理の

上達ぶりを監査するためだけれど」

 光祐さまは、幼少の頃から隅の椅子に座って、台所仕事をする紫乃や祐里との

談笑を楽しみにしていた。

「まぁ、光祐さまったら」

 祐里と紫乃は、顔を見合わせてくすっと笑い合う。

 台所には、料理の湯気の匂いとともに和やかな空気が充満していた。
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