桜ものがたり
祐里が隣で心細気にしている様子を分かっていながら、どうすることも
できない自分自身に腹を立てていた。
ようやく、食後の苺と珈琲が運ばれてきた。
祐里が珈琲を飲干して、ほっとしたのも束の間、
旦那さまからの提案があった。
「祐里、文彌くんを自慢の日本庭園に案内しておくれ。
文彌くんと将来のことを二人で歓談してきなさい」
旦那さまは、会食をしながら、饒舌な文彌と静かに受け答えをする祐里を
眺めて、良縁に満足していた。
「父上さま、私がご案内いたします」
光祐さまは、思わず声を発していた。
「いや、光祐は、邪魔をせず、ここで榛様から経済界のお話を聞かせて
いただきなさい」
旦那さまは、見合いの二人に気を利かせて、立ち上がりかけた光祐さまを
制した。
奥さまは、旦那さまの強引さに表情を曇らせる。
「はい、畏まりました」
祐里は、落ち着かないまま返事をした。
光祐さまは、長卓の下で不安げな表情の祐里の手を優しく握って頷いた。
それと同時に文彌を睨みつける。
文彌は、不敵にも勝ち誇った笑みを光祐さまに返した。
奥さまは、光祐さまが長卓の下で祐里の手を握って慰めている様子に
気付いて、
新たな衝撃を受けていた。