桜ものがたり
「感謝などいたしません。
私は、邪(よこしま)な考え方をされる榛様が嫌いでございます」
祐里は、思わず正直な気持ちを口にしていた。
そして、旦那さまの招待客にこのような発言をした自分に驚きながらも、
権力を笠に着る文彌に涙を見せてはならないと、瞬きをしてしっかりと
見返した。
こんなにも早く光祐さまとの別れの日がくるとは、
こころが張り裂けんばかりに哀しかった。
「さすがに桜河家で育っただけあって気丈な女だ。
だが、君は、世話になっている桜河の旦那さんの意向には逆らえないだろう。
桜河電機は、海外進出で榛銀行の融資を当てにしているからね。
君を担保にもらう条件を附帯して、次に会うときには、僕にそんな口が
利けないように君の全てを僕のものにしてやるからな」
文彌は、大蛇が鎌首(かまくび)をもたげるように高い壁となって立ちはだかり、
弱い立場の祐里を甚振(いたぶ)ることで、めらめらと燃え上がる激しい恋情を
感じていた。
「旦那さまのご意向には従わざるを得ません……
榛様とのお付き合いをお望みでございましたら従います。
でも、私の心は、決して榛様のものにはなりません」
祐里は(身分違いとおっしゃるのでございましたら、
私を妻になどなさらなければよろしゅうございますのに)
と精一杯の思いを込めて文彌を拒絶した。
文彌は、不敵な笑みを浮かべて祐里の前に君臨し、祐里の拒絶をも楽しんでいた。
光祐さまは、途中で席を立ち、その様子をバルコニーから見て悔しい
思いをしながら(桜、文彌さんは、なんて傲慢な方なのだろう)
と桜の樹に呟いていた。
文彌と祐里の間に割って入って、どんなに文彌を殴りたかったことか。
バルコニーの手摺りを握る手に血が滲むほど力が入っていた。
「怒った顔も魅力的だなぁ。今すぐに君の全てを味わい尽くしたいくらいだ」
文彌は、殊更恋情が高ぶって、再び祐里の細い肩を強引に抱き寄せて
くちづけを迫った。
祐里は、くらくらと眩暈に襲われて、文彌の腕の中に崩れ落ちる。
私は、邪(よこしま)な考え方をされる榛様が嫌いでございます」
祐里は、思わず正直な気持ちを口にしていた。
そして、旦那さまの招待客にこのような発言をした自分に驚きながらも、
権力を笠に着る文彌に涙を見せてはならないと、瞬きをしてしっかりと
見返した。
こんなにも早く光祐さまとの別れの日がくるとは、
こころが張り裂けんばかりに哀しかった。
「さすがに桜河家で育っただけあって気丈な女だ。
だが、君は、世話になっている桜河の旦那さんの意向には逆らえないだろう。
桜河電機は、海外進出で榛銀行の融資を当てにしているからね。
君を担保にもらう条件を附帯して、次に会うときには、僕にそんな口が
利けないように君の全てを僕のものにしてやるからな」
文彌は、大蛇が鎌首(かまくび)をもたげるように高い壁となって立ちはだかり、
弱い立場の祐里を甚振(いたぶ)ることで、めらめらと燃え上がる激しい恋情を
感じていた。
「旦那さまのご意向には従わざるを得ません……
榛様とのお付き合いをお望みでございましたら従います。
でも、私の心は、決して榛様のものにはなりません」
祐里は(身分違いとおっしゃるのでございましたら、
私を妻になどなさらなければよろしゅうございますのに)
と精一杯の思いを込めて文彌を拒絶した。
文彌は、不敵な笑みを浮かべて祐里の前に君臨し、祐里の拒絶をも楽しんでいた。
光祐さまは、途中で席を立ち、その様子をバルコニーから見て悔しい
思いをしながら(桜、文彌さんは、なんて傲慢な方なのだろう)
と桜の樹に呟いていた。
文彌と祐里の間に割って入って、どんなに文彌を殴りたかったことか。
バルコニーの手摺りを握る手に血が滲むほど力が入っていた。
「怒った顔も魅力的だなぁ。今すぐに君の全てを味わい尽くしたいくらいだ」
文彌は、殊更恋情が高ぶって、再び祐里の細い肩を強引に抱き寄せて
くちづけを迫った。
祐里は、くらくらと眩暈に襲われて、文彌の腕の中に崩れ落ちる。