桜ものがたり
「光祐さま、祐里にございます。果物をお持ちいたしました」
祐里は、扉を入ると、光祐さまの顔を見ることなく、円卓に果物の皿を置く。
光祐さまの顔を見てしまうと涙が止めどなく溢れてしまう気がしてならなかった。
光祐さまは、力いっぱい祐里を抱き締めた。
祐里の手から盆が転がり落ちた。
「祐里。昼間は、何も助けてあげられなくてすまなかった。
よく独りで頑張ったね」
光祐さまは、祐里を泣かせてばかりいる自分の力のなさに心を痛めていた。
祐里は、光祐さまの包み込むような優しい声に、昼間からの緊張がどっと
解けて、光祐さまの温かい胸に縋(すが)って泣きじゃくる。
文彌に見つめられ、抱き竦(すく)められ汚(けが)された漆黒の心の闇が
涙とともに晴れていった。
「祐里の振り袖姿は、榛様に見せるのが惜しいくらい、とても似合って
美しかったよ。
あの時に褒められなくてすまなかった。
心の狭いぼくを許しておくれ。
これからは、何があろうと絶対に祐里を守るからね」
光祐さまは、祐里を長椅子に座らせて向き合うと、
指先で祐里の溢れる涙を拭った。
祐里は、光祐さまから褒め言葉を賜って喜びを感じつつ、
光祐さまの掌の傷に気付いた。
慌てて光祐さまの掌を優しく包み込む。
光祐さまの傷口からは、悔しさと深い愛情が痛いほどに感じられた。
祐里の慈悲深い心が光祐さまの傷口を少しずつ癒していった。
「旦那さまは、榛様との御縁組をお慶びでございます。
祐里は、旦那さまの仰せの通りにいたします。
でも、祐里は、いつまでも光祐さまのお側に居とうございます」
祐里は、涙を湛えた瞳で真っ直ぐに光祐さまを見つめて、
愛情が心から溢れだすのを感じる。
「勿論だよ。ぼくの大切な祐里、いつまでもぼくの側に居ておくれ」
光祐さまは、しっかりと祐里を抱きしめて、優しく祐里の黒髪を撫でながら
(大切な祐里を誰にも渡しはしない)と心に誓う。
文彌に渡すくらいなら、今すぐにでも無垢な祐里を抱いてしまいたかった。
しかし、立派な男として祐里を守る立場にない学生の自分にその資格は
ないし、何よりも祐里が大人の女性に成長するまで、大切にして待ちたいと
思っていた。
現に祐里は、安心しきって自分に抱かれている。
光祐さまは、これほどまでに大切にしている祐里に、初対面でくちづけを
迫る文彌に対して不信感を擁(いだ)いていた。
祐里は、扉を入ると、光祐さまの顔を見ることなく、円卓に果物の皿を置く。
光祐さまの顔を見てしまうと涙が止めどなく溢れてしまう気がしてならなかった。
光祐さまは、力いっぱい祐里を抱き締めた。
祐里の手から盆が転がり落ちた。
「祐里。昼間は、何も助けてあげられなくてすまなかった。
よく独りで頑張ったね」
光祐さまは、祐里を泣かせてばかりいる自分の力のなさに心を痛めていた。
祐里は、光祐さまの包み込むような優しい声に、昼間からの緊張がどっと
解けて、光祐さまの温かい胸に縋(すが)って泣きじゃくる。
文彌に見つめられ、抱き竦(すく)められ汚(けが)された漆黒の心の闇が
涙とともに晴れていった。
「祐里の振り袖姿は、榛様に見せるのが惜しいくらい、とても似合って
美しかったよ。
あの時に褒められなくてすまなかった。
心の狭いぼくを許しておくれ。
これからは、何があろうと絶対に祐里を守るからね」
光祐さまは、祐里を長椅子に座らせて向き合うと、
指先で祐里の溢れる涙を拭った。
祐里は、光祐さまから褒め言葉を賜って喜びを感じつつ、
光祐さまの掌の傷に気付いた。
慌てて光祐さまの掌を優しく包み込む。
光祐さまの傷口からは、悔しさと深い愛情が痛いほどに感じられた。
祐里の慈悲深い心が光祐さまの傷口を少しずつ癒していった。
「旦那さまは、榛様との御縁組をお慶びでございます。
祐里は、旦那さまの仰せの通りにいたします。
でも、祐里は、いつまでも光祐さまのお側に居とうございます」
祐里は、涙を湛えた瞳で真っ直ぐに光祐さまを見つめて、
愛情が心から溢れだすのを感じる。
「勿論だよ。ぼくの大切な祐里、いつまでもぼくの側に居ておくれ」
光祐さまは、しっかりと祐里を抱きしめて、優しく祐里の黒髪を撫でながら
(大切な祐里を誰にも渡しはしない)と心に誓う。
文彌に渡すくらいなら、今すぐにでも無垢な祐里を抱いてしまいたかった。
しかし、立派な男として祐里を守る立場にない学生の自分にその資格は
ないし、何よりも祐里が大人の女性に成長するまで、大切にして待ちたいと
思っていた。
現に祐里は、安心しきって自分に抱かれている。
光祐さまは、これほどまでに大切にしている祐里に、初対面でくちづけを
迫る文彌に対して不信感を擁(いだ)いていた。