桜ものがたり
籐子は、三年ぶりに会う光祐さまにとても上機嫌だった。
おまけに祐里のことで、一人娘の奥さまが戻ってきていることにも
内心喜んでいた。
そして、血の繋がらない祐里を三人目の孫として愛(いつく)しんでいた。
「光祐さん、祐里さん、今夜は、薫子さんと一緒にお泊まりなさいな。
父上さまは、おひとりで頭を冷やされるとよろしゅうございます。
それに御爺さまも、お仕事から戻られましたらお喜びになられますもの」
「ありがとうございます。おばあさま」
「萌も、光祐お兄さまと祐里さまがいてくださると楽しいもの」
光祐さまと萌は、籐子の両隣に座り、祐里は、籐子の肩を優しく揉んで
差し上げる。
祐里は、籐子が光祐さまや萌と同じように接してくれることに感謝と喜びを
感じていた。
光祐さまと祐里は、祖父の東野圭一朗と伯父の東野香太朗が仕事から帰り、
皆と一緒に夕食をご馳走になってから、お屋敷に戻った。
その夜、東野圭一朗は、奥さまを諭した。
「薫子、桜河に嫁に出たのだから、何があろうと東野の家に戻って来るとは
承服しかねるね。
啓祐君に従うのが妻の務めだろう。
しかし、私も母上も内心喜んでおる。
戻ってきたからには、二、三日ゆっくりしていきなさい」
圭一朗は、厳しく諭しつつも、奥さま可愛さから口調が和らぐの抑えきれない。
「ありがとうございます、父上さま。
今まで旦那さまに添うことがわたくしの務めと精進して参りました。
でも、桜河電機のために祐里さんの縁組をなさる旦那さまには
同意できかねます。
そのような冷たいお心の御方とは思いませんでした」
「啓祐君も経営者の風格が出てきたということだ。
経営者たる者は、まず会社の利潤を最優先して考えるものだからね。
薫子と啓祐君の縁組にしても、先代の詠祐(えいすけ)さんとは意気投合して
縁組を約束したが、東野地所・桜河電機相互のそれなりの利潤を考えての
ことだった。
しかし、薫子が母の立場で祐里を大切に思っているように、私は、光祐や
萌と同様に祖父として祐里を愛(いと)おしく思っている。
いざという時は、私が祐里を引き受けよう」
「父上さま、ありがとうございます」
奥さまは、厳しい顔の裏に隠された父・圭一朗の優しさに包まれて、
久しぶりに娘時代に戻ったような気分になって抱きついた。
圭一朗は、いくつになっても可愛い愛娘を力強く抱きしめた。
旦那さまは、翌日の夜に奥さまを迎えに行き、義父・圭一朗に頭を下げた。
奥さまは、調査報告書が届くまでの間、休戦を宣言してお屋敷に戻った。
おまけに祐里のことで、一人娘の奥さまが戻ってきていることにも
内心喜んでいた。
そして、血の繋がらない祐里を三人目の孫として愛(いつく)しんでいた。
「光祐さん、祐里さん、今夜は、薫子さんと一緒にお泊まりなさいな。
父上さまは、おひとりで頭を冷やされるとよろしゅうございます。
それに御爺さまも、お仕事から戻られましたらお喜びになられますもの」
「ありがとうございます。おばあさま」
「萌も、光祐お兄さまと祐里さまがいてくださると楽しいもの」
光祐さまと萌は、籐子の両隣に座り、祐里は、籐子の肩を優しく揉んで
差し上げる。
祐里は、籐子が光祐さまや萌と同じように接してくれることに感謝と喜びを
感じていた。
光祐さまと祐里は、祖父の東野圭一朗と伯父の東野香太朗が仕事から帰り、
皆と一緒に夕食をご馳走になってから、お屋敷に戻った。
その夜、東野圭一朗は、奥さまを諭した。
「薫子、桜河に嫁に出たのだから、何があろうと東野の家に戻って来るとは
承服しかねるね。
啓祐君に従うのが妻の務めだろう。
しかし、私も母上も内心喜んでおる。
戻ってきたからには、二、三日ゆっくりしていきなさい」
圭一朗は、厳しく諭しつつも、奥さま可愛さから口調が和らぐの抑えきれない。
「ありがとうございます、父上さま。
今まで旦那さまに添うことがわたくしの務めと精進して参りました。
でも、桜河電機のために祐里さんの縁組をなさる旦那さまには
同意できかねます。
そのような冷たいお心の御方とは思いませんでした」
「啓祐君も経営者の風格が出てきたということだ。
経営者たる者は、まず会社の利潤を最優先して考えるものだからね。
薫子と啓祐君の縁組にしても、先代の詠祐(えいすけ)さんとは意気投合して
縁組を約束したが、東野地所・桜河電機相互のそれなりの利潤を考えての
ことだった。
しかし、薫子が母の立場で祐里を大切に思っているように、私は、光祐や
萌と同様に祖父として祐里を愛(いと)おしく思っている。
いざという時は、私が祐里を引き受けよう」
「父上さま、ありがとうございます」
奥さまは、厳しい顔の裏に隠された父・圭一朗の優しさに包まれて、
久しぶりに娘時代に戻ったような気分になって抱きついた。
圭一朗は、いくつになっても可愛い愛娘を力強く抱きしめた。
旦那さまは、翌日の夜に奥さまを迎えに行き、義父・圭一朗に頭を下げた。
奥さまは、調査報告書が届くまでの間、休戦を宣言してお屋敷に戻った。