桜ものがたり
五日後に旦那さまのところへ榛(はしばみ)文彌に関する調査報告書が
届けられた。
この日は、偶然にも光祐さまの十八歳の誕生日に当たる三月三十一日で、
光祐さまにとって素晴らしい誕生日の贈り物となった。
調査報告書には、文彌の大学時代から現在に至るまでの女性関係が延々と
綴られていた。
旦那さまは「これでは、祐里が苦労する事になる」と溜め息をつき
『祐里を大切にして、本当にしあわせにしてくれるのですか』
という光祐さまの言葉を思い出していた。
旦那さまは、すぐに榛家へ婚約の断りの書状を書き送った。
榛家からは、その後も再三の申し出があったが旦那さまは断固として断った。
奥さまも光祐さまも喜んだ。そして、当の祐里がどんなに喜んだことか。
「祐里、私に任せてくれた縁談は、すまないがなかったことにしておくれ。
考えてみれば、祐里は桜河の家に縛られないで好きな男性のところへ
自由に嫁にいくといい。
だが、もう少しその可愛いらしい笑顔を私たちの側で見せておくれ」
旦那さまは、祐里を抱き寄せる。
祐里の安堵した笑顔を見ると、女としてではなく娘として愛おしさが増した。
「はい、旦那さま。ありがとうございます。
祐里は、しあわせものでございます」
祐里は、旦那さまの大きな広い胸に抱えられて安らぎを感じていた。
「今度のことで、私も薫子も祐里を嫁に出すのが少々惜しくなった。
祐里より先に光祐の嫁を考えるべきだったね。
大学を卒業するまでにはお相手の娘さんを決めておかなければなるまい。
薫子も候補の娘さんを気に留めておくように。
光祐は、本日で十八歳になったのだから、そろそろ桜河家の後継ぎとしての
自覚を持ちなさい。
光祐には、桜河家の嫁として相応な娘さんを見つけなければならないからね。
祐里も光祐の許婚者が決まった時は仲良くしておくれ。
今夜は、盛大に光祐の誕生祝いと大学の入学祝いをするとしよう」
「はい、畏まりました。旦那さま」
「はい、父上さま。ありがとうございます」
「はい、旦那さま」
こうして、一先ず、祐里の縁談は白紙に戻り、旦那さまは、上機嫌で今度は
光祐さまに矛先(ほこさき)を向けた。
奥さまと光祐さまは、安堵して祐里に優しい笑顔を向け、
お屋敷は温かな空気に包まれていた。
届けられた。
この日は、偶然にも光祐さまの十八歳の誕生日に当たる三月三十一日で、
光祐さまにとって素晴らしい誕生日の贈り物となった。
調査報告書には、文彌の大学時代から現在に至るまでの女性関係が延々と
綴られていた。
旦那さまは「これでは、祐里が苦労する事になる」と溜め息をつき
『祐里を大切にして、本当にしあわせにしてくれるのですか』
という光祐さまの言葉を思い出していた。
旦那さまは、すぐに榛家へ婚約の断りの書状を書き送った。
榛家からは、その後も再三の申し出があったが旦那さまは断固として断った。
奥さまも光祐さまも喜んだ。そして、当の祐里がどんなに喜んだことか。
「祐里、私に任せてくれた縁談は、すまないがなかったことにしておくれ。
考えてみれば、祐里は桜河の家に縛られないで好きな男性のところへ
自由に嫁にいくといい。
だが、もう少しその可愛いらしい笑顔を私たちの側で見せておくれ」
旦那さまは、祐里を抱き寄せる。
祐里の安堵した笑顔を見ると、女としてではなく娘として愛おしさが増した。
「はい、旦那さま。ありがとうございます。
祐里は、しあわせものでございます」
祐里は、旦那さまの大きな広い胸に抱えられて安らぎを感じていた。
「今度のことで、私も薫子も祐里を嫁に出すのが少々惜しくなった。
祐里より先に光祐の嫁を考えるべきだったね。
大学を卒業するまでにはお相手の娘さんを決めておかなければなるまい。
薫子も候補の娘さんを気に留めておくように。
光祐は、本日で十八歳になったのだから、そろそろ桜河家の後継ぎとしての
自覚を持ちなさい。
光祐には、桜河家の嫁として相応な娘さんを見つけなければならないからね。
祐里も光祐の許婚者が決まった時は仲良くしておくれ。
今夜は、盛大に光祐の誕生祝いと大学の入学祝いをするとしよう」
「はい、畏まりました。旦那さま」
「はい、父上さま。ありがとうございます」
「はい、旦那さま」
こうして、一先ず、祐里の縁談は白紙に戻り、旦那さまは、上機嫌で今度は
光祐さまに矛先(ほこさき)を向けた。
奥さまと光祐さまは、安堵して祐里に優しい笑顔を向け、
お屋敷は温かな空気に包まれていた。