桜ものがたり
  白百合女学院の近くには、星稜高等学校が在り、春の花咲く学園通りは、

行き交う男子学生と女子学生で賑やかだった。

「萌、毎日、声をかけられて困ってしまう」

萌は、取り巻きの級友に毎朝声をかけられた人数を自慢するのが楽しみだった。

 女学校の制服も萌の生地は舶来物で仕立てがよく、一目瞭然で良家の

お嬢さまと誰もが認めた。

「萌さまは、可愛くていらっしゃるから」

祐里も級友たちも声を揃えて相槌を打った。

「祐里さまは、桜河のお嬢さまだから、みなさん、遠慮されて声をおかけに

なれないのでございますわ。

 それに虫が付かないようにお抱え運転手付きでございますし。

 今度の土曜日の昼食会に祐里さまもご一緒しましょう。

 杏子さまのお家の銀杏亭をお借りして、星稜の方々と盛大にいたしますの。

 萌からも薫子叔母さまにお願いいたしますから」

 萌は、学校が終わるといつもすぐに帰ってしまう祐里を昼食会に誘いたくて、
林杏子に目配せした。

 萌は、幼馴染の久世春翔(くぜはると)と共に昼食会を企画していた。

「そういたしましょう。萌さまと祐里さまがお揃いになれば、杏子の家の

銀杏亭も三ツ星レストランに格上げですもの」

 杏子は、萌の気持ちを察して祐里を誘った。

 勿論杏子も昼食会の企画に加わっていた。

「それでは、ご一緒させていただきます」

女学校の級友たちは、祐里が『榊原祐里』と名乗っても、

違和感なく桜河のお嬢さまとして接してくれていた。



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