桜ものがたり
「はじめまして、鶴久結子(ゆうこ)でございます。

 息子が桜河さまのお嬢さまと親しくさせていただいているようで、

一度ご挨拶申し上げようと存じていたところでございました。

 早速、お近づきになれて光栄でございます」

 いつの間にか、柾彦の後ろに母・結子が立っていた。

 シルクタフタの多彩なドレスを身に纏った結子は、真珠の長い首飾りをつけ

モダンな雰囲気を醸し出していた。

 それとは打って変わり、奥さまは、真珠色地に紫陽花文様の着物姿で

帯留めに真珠をあしらい、しっとりとした美しさを見せていた。

「こちらこそ、はじめまして。桜河薫子でございます。

 祐里さんが親しくしていただいているようでございますわね。

 よろしければ、お近づきの印に次の日曜日にお茶にいらっしゃいませんか」

「まぁ、ありがとうございます。嬉しいですわ。

 お言葉に甘えて伺わせていただきます」

「お待ち申し上げております」

 奥さまと結子は、一瞬のうちに気が合って、柾彦と祐里のことを忘れて

世間話を始めていた。

「母上の長話に付き合っていたら夜が明けてしまうからね。

 姫、あちらで何か飲み物をいただきましょう」

 柾彦は、結子に聞こえないように祐里の耳元で囁いた。

 祐里は、頷いて柾彦に従った。

「祐里さんとあちらで飲み物をいただいてきます」

 柾彦は、結子と奥さまに断って、瞬時に祐里の手を取り誘導した。

 祐里は、素直に柾彦に従った。

 柾彦は、林檎の果汁を二つ取り、傍らの長椅子に祐里を掛けさせてから、

隣に腰かけた。
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