桜ものがたり
「皆が喜ぶ顔を同時に見たかったからね。 

 そうと決まれば、すぐにでも婚約披露をしなくてはなるまい。

『善は急げ』だから、婚約披露宴は明後日の大安に決まりだ。

 結婚は、光祐が大学を卒業して我が社に入ってからになるだろうが、

薫子、準備をお願いするよ」

「はい、旦那さま。花婿、花嫁の両方のお支度でございますから楽しみで

ございます。

桜河家に相応しい立派なお支度をいたしましょうね」

 奥さまは、瞳をきらきらと輝かせた。

「それから、祐里、今日からは私たちのことを遠慮せずに、父親、母親と

思っておくれ。

 祐里は、桜河家の人間になったのだからね。さぁ、早速呼んでおくれ」

旦那さまと奥さまは、熱いまなざしで祐里を見つめた。

「父上さま。母上さま。祐里は、しあわせものでございます」

祐里は、お二人の熱いまなざしに恥ずかしく感じながらも、

はっきりとした声で、満面の笑顔を見せて応えた。

 旦那さまと奥さまは、祐里を抱きしめた。

 祐里は、お屋敷にこれからも居られると思うと胸がいっぱいになり、

旦那さまと奥さまに抱かれて、しあわせの涙を溢れさせた。

光祐さまは、その様子を安堵して見つめていた。
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