桜ものがたり
 光祐さまは、安堵した途端に午後から何も食べていないことを思い出して

食堂に行き、紫乃の作った夕食を至福の気分で食べ終えた。

 祐里は、しあわせな微笑を湛えて、その光祐さまの安堵した様子を横で見つめていた。

 心配して台所で待機していた森尾夫婦と紫乃は、二人の吉報を聞いて

嬉し涙で見守っていた。

「爺は、光祐坊ちゃまと祐里さまのおしあわせな御姿が何より嬉しゅう御座います」

 森尾夫婦は、手拭いで何度も目頭を拭った。

「明日は、ご婚約のお祝いに坊ちゃまの大好きな桜葉餅をお作りしましょうね。

 ご近所にもお届けしましょう。

皆も坊ちゃまと祐里さまのご婚約を喜んでくださいますわ。

 婆やは、嬉しいばかりでございます」

 紫乃は、窓から見える桜の樹を見上げて言った。

「ご馳走さま。爺、あやめ、婆や、ありがとう。

 いろいろと心配をかけたけれど、皆が大好きな祐里をしあわせにするよ。

これからも、ぼくに力を貸しておくれ」

 光祐さまは、森尾夫婦と紫乃に頭を下げた。

「光祐坊ちゃま、もったいないお言葉で御座います。私たちは、何時でも

光祐坊ちゃまと祐里さまの味方で御座います」

 光祐さまと祐里は、改めて森尾夫婦と紫乃の深い愛情に胸がいっぱいになった。
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