【短】半透明な愛を捧ぐ
「…熱は、ないな」
「さっきまで、熱あったの?」
「ああ、結構熱かったな」
うひゃー、熱まで出したんだ。
あ、そうだ。聞きだいことがあったんだ。
「…ねえ、お父さん、」
「なんだ」
「“この花が枯れても私を忘れないで”ってあたし誰かに言ったことあるっけ?」
「………いや、それは、」
「なんか、愛してるの代わりみたいね」
父が首を傾げた後、母がなんだか嬉しそうに笑った。
「…でも、急にどうしたの?好きな人でも出来た?」
ああ、だからか、こんなに嬉しそうなのは。
だから気付かなかったんだ。
父が、見たことのないような、顔をしていたなんて。
…愛してるか、つまりりつさんは梨吉さんのことが好きだったんだね。
でも、きっと、りつさんは…───
「里依南はもう家に帰ってなさい、明日は倒れないでよ?」
「…分かった」
そして、母にはぐらかされたことさえも、気付かなかった。