樹海の瞳【短編ホラー】
第六章 秘密
 西郷は一人、目を覚ました。近くに木暮の姿が見えない。
 奥のキッチンにもいない。
 木暮の荷物は、傍らにあった。

「兄チャン、上かい」
 西郷はそう言うと、足早に上っていった。

 扉の前に立つと、ノックをせずにドアノブをガチャガチャと回したが、開かない。鍵が掛っている。
 西郷は忙しくなく鍵穴を覗いた。息を殺して鍵穴から見回したが、誰かいるような気配は無かった。

「どこへ行ったんだ」

 西郷は一階へ下りた。
 窓に目を移すと、嘘のように霧が晴れている。
 西郷は玄関から表へ出た。間違いなく霧は晴れていた。

 西郷は一旦荷物を取りに行った。近くにあったパンを頬張って、急いで屋敷を後にしようとした。

「西郷さん、出発ですか」

 ふいに黛が屋敷の傍らから声を掛けた。

 西郷は心臓が止まりそうになった。
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