樹海の瞳【短編ホラー】
傍らには、木暮が倒れていた。
目を見開いて、真っ白で、生きているようにはとても思えない形相だった。
もう一度、西郷は女に目を戻した。
西郷は内臓が飛び出すほどの、嘔吐を感じ、小窓に挟まった。
首がない。
首のない女が立っている。
ニットの赤いワンピースを着た、首を切断された女だ。
「ひっ、ひぃぃ」
西郷は声にならない悲鳴を上げた。
小窓から無我夢中に頭と腕を引き抜あた。勢い余って、そのまま地面にドスンと尻餅をついた。
西郷は痛みも捨て置き、枯れ葉を掻きむしりながら、立ち上がった。
「西郷さん」
西郷は呼び掛けに気付かなかった。
「西郷さん。木暮です」
木暮の声だ。
「ひっ、ひゃあぁ」
西郷は耳を塞いで走り出す。
口を縦に伸ばした死顔(しにがお)が脳裏に浮かんだ。
西郷は走った。
息も堪え堪えに走り続けた。
胸が痛い。
苦しい。
とても、くるしい。
西郷は倒れ込み、仰向けになった。
視界が円く開ける。
息遣いが、遠く感じた。
意識が朦朧とした。
いつの間にか走馬灯のように、何かの記憶がよぎり出した。
一年前に、病気の妻と死別したこと。
一人でツアーに参加したこと。
寂しくて、死ぬつもりで、樹海の中に入って行ったこと。
妻が好きだったポーカーゲームを、樹海で独りでやっていたこと。
喉が渇いて、お腹が減って、苦しくて苦しくて堪らなかったこと。
気が付けば、途方もなく涙が止まらなかったこと。
そして、霧の日に、自分が生き絶えたこと。
目を見開いて、真っ白で、生きているようにはとても思えない形相だった。
もう一度、西郷は女に目を戻した。
西郷は内臓が飛び出すほどの、嘔吐を感じ、小窓に挟まった。
首がない。
首のない女が立っている。
ニットの赤いワンピースを着た、首を切断された女だ。
「ひっ、ひぃぃ」
西郷は声にならない悲鳴を上げた。
小窓から無我夢中に頭と腕を引き抜あた。勢い余って、そのまま地面にドスンと尻餅をついた。
西郷は痛みも捨て置き、枯れ葉を掻きむしりながら、立ち上がった。
「西郷さん」
西郷は呼び掛けに気付かなかった。
「西郷さん。木暮です」
木暮の声だ。
「ひっ、ひゃあぁ」
西郷は耳を塞いで走り出す。
口を縦に伸ばした死顔(しにがお)が脳裏に浮かんだ。
西郷は走った。
息も堪え堪えに走り続けた。
胸が痛い。
苦しい。
とても、くるしい。
西郷は倒れ込み、仰向けになった。
視界が円く開ける。
息遣いが、遠く感じた。
意識が朦朧とした。
いつの間にか走馬灯のように、何かの記憶がよぎり出した。
一年前に、病気の妻と死別したこと。
一人でツアーに参加したこと。
寂しくて、死ぬつもりで、樹海の中に入って行ったこと。
妻が好きだったポーカーゲームを、樹海で独りでやっていたこと。
喉が渇いて、お腹が減って、苦しくて苦しくて堪らなかったこと。
気が付けば、途方もなく涙が止まらなかったこと。
そして、霧の日に、自分が生き絶えたこと。