樹海の瞳【短編ホラー】
第九章 命の泉
樹海の中に、唯一、旅人の喉を潤わせる泉がある。
黛はその泉を、命の泉と名付けた。パックリと開いた底の見えない岩穴に、冷たい水が満たされて、出来ている。
ある朝、泉の岩陰に持たれ掛るように、若者が苦しんでいた。
若者は最期の力で黛の襟元を掴むと、睨みつけるような眼光を放ち、泡を吹いて生き絶えた。
余りの出来事に、黛はその場にへたり込んだ。若者は目を見開いて、真っ白になっていた。
若者の傍らには遺書らしきものがあった。宛名は、私を見付けてくれた人、となっていた。
黛は遺書の封を切った。
私は木暮俊亮。
この樹海の見知らぬ泉で死にます。
私は、野鳥を写真に収めるのが好きで堪らない。
だから、この樹海に足を運ぶ。
そんな時、あの民家を見付けた。そこで、美しい女性に出会った。瞬く間に虜になっ た。
私は、何度も彼女に会いに、彼女という、野に放たれた鳥を収めに行った。
私は、幸せだった。
しかし、何のために美しい女性が、こんな樹海にいるのか気になった。
密かに民家の側に隠れ、彼女が男と逢い引きする様を、目撃してしまった。
一部始終をつぶさに眺めた私は、虚しさと、悲しみに包まれ、絶望した。
何も考えずにさ迷っていたら、全く知らない場所を歩いていた。
樹海で迷えば、もう二度と外へは出られないと、私は知っている。
黛はその泉を、命の泉と名付けた。パックリと開いた底の見えない岩穴に、冷たい水が満たされて、出来ている。
ある朝、泉の岩陰に持たれ掛るように、若者が苦しんでいた。
若者は最期の力で黛の襟元を掴むと、睨みつけるような眼光を放ち、泡を吹いて生き絶えた。
余りの出来事に、黛はその場にへたり込んだ。若者は目を見開いて、真っ白になっていた。
若者の傍らには遺書らしきものがあった。宛名は、私を見付けてくれた人、となっていた。
黛は遺書の封を切った。
私は木暮俊亮。
この樹海の見知らぬ泉で死にます。
私は、野鳥を写真に収めるのが好きで堪らない。
だから、この樹海に足を運ぶ。
そんな時、あの民家を見付けた。そこで、美しい女性に出会った。瞬く間に虜になっ た。
私は、何度も彼女に会いに、彼女という、野に放たれた鳥を収めに行った。
私は、幸せだった。
しかし、何のために美しい女性が、こんな樹海にいるのか気になった。
密かに民家の側に隠れ、彼女が男と逢い引きする様を、目撃してしまった。
一部始終をつぶさに眺めた私は、虚しさと、悲しみに包まれ、絶望した。
何も考えずにさ迷っていたら、全く知らない場所を歩いていた。
樹海で迷えば、もう二度と外へは出られないと、私は知っている。