樹海の瞳【短編ホラー】
最終章 告白
 黛は書き続けた。
 愚かな人間の運命(さだめ)を。

 泥の味がする珈琲を片手に、沢山の意識が交錯する樹海の木々を眺めた。
 黛にはモノを書く、という習慣など無かった。
 今の自分は、樹海が育んだ瞳の如くであった。

 ある日、西郷の死体を見付けた。黛はその場の土を掛けて、自然に葬った。
 墓標のない盛り上がった土手は、明らかに周りから見ておかしかった。黛は目立たないように、土を集めた。


 私、黛は告白する。

 つぶさに感じた魂の叫びは、私が犯した深い禍を浮彫りにさせる。
 私は志津との逢い引きの折り、民家の側で潜む木暮を見付け、激しい嫉妬の念と、言い表せない不潔感に襲われた。
 志津はそれを感じ取り、恐怖するも、ただじっと耐え、私から離れることもなかった。
 そして、志津は樹海の真ん中で私から呼び出され、私は志津の望み通り、首を切断した。
 志津の悲しみは、私の哀しみになった。

 しかし、全てはもう遅い。動揺した私は、その場から逃げるように立ち去ったが、翌日、思い直して、志津を葬ろうと戻ってきた。
 だが、志津の頭部はそこには無かった。

 その後、胴体部分は白骨化し、散漫な私が樹海を散策中に見付ける事になるのであるが、私にとって、既に意味の薄れた他人の死体であった。
 その時の私は、頭蓋骨が無い理由すら、失念する有り様であった。

 私がこうして書き留るのは、自分の軌跡を記し、その罪を余す事なく全うしたいがためだ。記憶が消えていく私には、無意識に収拾する品々に、特別な感慨など有り得ない。

 ただ、最大限の慈しみの心で、包み込むのだ。
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