樹海の瞳【短編ホラー】
「なぁアンタ、一人かい」
 年配の方が、唐突に聞いた。

「そうです」

「こんなところに住んで、いったい何やっているんだ」

 アンティークな装飾を見回しながら、いぶかし気に言った。

「物書きなんですよ」

「モノカキ?そうか。一人で静かな方か都合の良い商売だな」

「そんなところです」

「私は単独行動で鳥を追い掛けていましたが、あなたの方はみんなが心配していませんか」

 若い男が年配の男のバッグに付いているツアーの名札を見て言った。

「そうや。ワシは西郷いうもんや。団体旅行で来た」

「遅れました。私はフリーのカメラマンで、木暮と言います」

 二人がこちらを向いたので、黛のタイミングが遅れた。

「黛です。宜しく」

「ワシは家内と一緒に参加したんや。いや、ワシが引っ張っていったようなもので。そのせいか家内はいっこうに旅館から一歩も外に出ん。結局、ワシだけ散策に参加したんや」

「それでも奥さん、心配しているでしょう」

 黛は言った。

「そんな事はない。良い年して家内はひきこもりだ。テレビでも見ているだろうよ」

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