春、恋。夢桜。
彼女は、もともと適度に大きい目を、さらに大きく輝かせて言った。
でも、ジョギングも知らないなんて……
世間知らずにも程がある。
丈の短い、ピンクの桜模様の着物。
落ち着いた、赤い色の帯。
着物の露出を適度に押さえる長さの、白い足袋。
着ている物だって、明らかにおかしい。
それに、さっきの着地は何だったんだよ……―――
「お主聞いておるのか?じょぎんぐとやらは美味いのかと聞いておるのじゃぞ!?」
今度は少し、俺を睨み付けてきた。
今はこの場を治めることを優先するべきか……。
途切れない疑問達をぶつけたい気持ちを押さえて、とりあえず俺は答えた。
「ジョギングは美味くない。そもそも、食べ物じゃない。運動のことだよ。
体力をつけるためとか、健康のためとかにゆっくり走ること」
「なーんじゃ!つまらんのう」
そう言って彼女はきびすを返した。
桜の根元に座って、俺にも座るように促す。
俺は、黙ってそれに従った。