春、恋。夢桜。
【四】
『新しいスケッチブックを持ってきてくれ!』
それが、昨日の帰りがけに麗華に言われた言葉だった。
何の絵を描いたのか
絵を見せてくれないか
なんて聞いても、全く首を縦に振ってくれなかいくせに……
「響兄!麗華ちゃん、喜んでくれてた?」
翌朝、いつもよりも早起きをして、梨恋が階段を駆け下りてきた。
その勢いで、朝食を食べる俺の所まで来る。
「あぁ。すっげぇ喜んでたよ。耳の横で結んでやったんだけど、それで良かったか?」
「えっ!?響兄が結んだの?」
目を丸くして驚く梨恋に、少しいらっとしながらも、俺は『あぁ』と相槌を打った。
「意外だなぁ。響兄と麗華ちゃんって、もうそんなにラブラブだったんだ!」
「はぁ!?お前、何言ってんだよ!」
びっくりして、持っていたお茶碗を思わず落としかけた俺を、梨恋は容赦なく大声で笑った。
「響兄照れてるー!
良かったじゃん!麗華ちゃん可愛いし、いい子だし!梨恋、早く麗華ちゃんと同じお家で暮したぁい」
梨恋は、うっとりとした表情でそんなことを呟いた。
俺は、そんな梨恋の様子にため息を吐いて、席を立つ。
「ごちそうさま」
そう言って台所を出ると、残りの準備を全て終わらせてから家を出た。