春、恋。夢桜。
「終わったぁー!」
帰りのホームルームの直後、戸崎が両手を伸ばしながら言った。
朝には授業が嫌だとか何とか言っていた戸崎だけど、ホームルーム以外は結局一睡もすることなかった。
ふざけてるようで真面目なこいつは、なかなか面白い。
「櫻井君。悪いけど、カーテン開けてもらってもいいかな?」
教室を掃除するためだろう。
ほうきを片手にそう言う彼女に軽く返事をすると、俺はカーテンに手をかけた。
一気に横へ引っ張ると、低くなりかけた太陽の光が、直接目に入ってくる。
いきなりの衝撃に、眩しくて目を閉じかけた瞬間、俺はそれを思いっきりこじ開けた。
目の前に広がる光景が、自分の頭の中に記憶されてるものと違う。
全く違う。
これは、悪い夢……か?
「麗華、どこに行ったんだ……?」
力なく呟いた俺に、戸崎が不思議そうにこっちへ歩いて来た。
そして、俺の真横で、同じように立ち尽くす。
「どういうことだ……?あれ……」
なぁ、どこへ行ったんだよ……。麗華。
今朝まで堂々と存在感を表していたピンクは、跡形もなく消えていた。