春、恋。夢桜。
【五】
どのくらいの間、その状態でいたんだろう?
いや、実際にはほんの数秒だと思う。
俺はしばらくの間止まっていた頭を呼び起こして
何も持たないままであわてて教室を飛び出した。
放課後になって混み合う白い廊下を、俺だけが必死になって走る。
どのくらいの人をよけたのか、わからない。
どのくらいの人にぶつかったのかも、わからない。
ただ、ひたすらに出口だけを目指した。
これでもか、という程に眩しく差し込む光が、とてつもなく煩わしい。
無駄に長いエスカレーターに、心の底から怒りが込み上げる。
その全てを駆け抜けて、そのまま校門へ向かった。
俺に向けられた不思議そうな視線を嫌と言う程感じたけど
そんなものはどれも、どうでも良い。
俺は校門を出て、迷うことなく右へ曲がった。
それでも、ふと視界に入ってきた風景を見て、俺は足を止めた。