春、恋。夢桜。
「あぁ。もう忘れるな。
用事がこれだけなら、もうここを離れてくれ。仕事の邪魔だ」
冷たく言い放った大島は、そのまま踵を返して元の所へ歩いて行った。
そんな大島をじっと見ていた中田が、慌てて彼を追いかけようとする。
「中田さん!最後にもう1つ、教えてもらえませんか?」
「え?何かな?」
かなり優しい性格をしているらしくて、中田はすっと俺を振り返ってくれた。
「このホテルの建設を含めた企画は、澄月町の人達から認められたものなんですか?」
「いや、ここは町長の私物だって言っただろう?だから、そういうのは必要ないんだ。
田んぼや畑の方は、まだ許可を得ていない所もあるから、これから少しずつ説得をしていく感じかな?」
「……そうですか」
「じゃあ、僕はここで。大島さんが怒りだす前に、早く帰りなよ!」
俺は、まっすぐに背を向けて走っていく中田を少しの間見ていた。
「中心から3メートルの位置に……」
そう、中田が声を張り上げているのが聞こえる。
そして、大島がこっちに視線を送りかけた瞬間に
俺は丘の真ん中に背を向けて歩きだした。