春、恋。夢桜。
戸崎はそう言うと、ぽんぽん、と俺の鞄を叩いた。


「あ、あぁ。……悪いな」


俺はそれだけ答えて、そのままキッチンへ向かう。


リビングからカウンターを挟んだ位置にあるキッチンには、今は誰もいない。



深みのある青を基調にしたキッチンは、月の輝く夜空を思い出させた。


俺は、持ってた物を机に置くと、その中に白く浮かぶ冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。


長い間走り続けて酷使し続けた体に、ひんやりとした感覚が走る。


息が切れそうになるまで一気に水を流し込んだ俺は

空になったペットボトルを見つめた。


「響兄、どうしたの?それ……」


何も話さない俺を不思議に思ったのか、梨恋がカウンターに両腕を乗せた格好で俺を覗き込んだ。


ソファーに座ったままの戸崎も、背をもたれたままこっちに視線を移す。


「それって?」



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