春、恋。夢桜。
【二】
どれくらいの間かはわからない。
俺は、カーテンも閉めないまま、薄暗い部屋でベッドに寝転んでいた。
「響、ちょっといいか?」
戸崎が、そう言いながらドアを開ける。
問い掛けてきたけど、俺の返事を聞く気はなかったらしい。
「何だよ、いきなり」
俺は、まっすぐに天井だけを見ながら短く答えた。
「別に。たださ、お前の様子がおかしいと思って。俺、優しい奴だから心配になっちゃってねぇ」
静かにドアを閉めた戸崎は、勝手に机の傍の椅子に座った。
「何だよ、それ。別に何も変わらねぇから」
「いやいや、変わらねぇことねぇから。月美丘を見た瞬間に教室飛び出すし……」
じっとこっちを見つめる戸崎が、視界の隅に入る。
気まずくなった俺は、思わず戸崎に背を向けるように寝返りを打った。