春、恋。夢桜。
「スミレがいたのは、俺の家の庭だった。1ヶ所だけ黄色いパンジーのコーナーがあったんだよ。

でもさ、パンジーが咲くのって4月から5月あたりだけだろ?だから、すぐに会えなくなっちまったよ」


「枯れたってことか?」


「あぁ。時期が終わって花が枯れば、花の精の役割も終わるんだろうな。

俺は、次の年も、その次の年も、春になるとスミレを探したんだ。でも、スミレどころか、他の妖精にも会えなかったよ」



戸崎は、苦笑いをするように、軽く息を吐いた。


「何だったんだろうな、結局。結ばれたわけでもねぇ。ずっと一緒にいたわけでもねぇ。
ただ話してただけなのに、俺はスミレに支えられてる気がしたんだよ」

「でも、それがいきなりいなくなったら……」

「そりゃ、いなくなった時ショックだったよ。実際、泣いたしな。
でも、それを通り過ぎたら、感謝しか頭に浮かんでこなくなった」


そこまで言うと、戸崎は何気なく視線を俺に合わせた。
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