春、恋。夢桜。
「響、お前にはないわけ?そーゆーの」


戸崎は、優しくそう言った。


「俺はさ、……桜だった」

「え?」

「俺は、月美丘の桜の精に会った。それが、麗華だ」


そう言った俺は、無表情だったと思う。

少し目を見開くような仕草をした戸崎だけど、すぐに元の顔に戻して、先を促す。


「それで?」

「あぁ。麗華はさ、ピンクの桜模様の着物を着てた。
話し方もおかしくてさ、自分のことを『わし』って言うし、語尾は『じゃ』とかだし、本当に変な奴だったよ」


本当に、無邪気な奴だった……―――


「しかも世間知らずでさ、俺がいろんなことを教えた。
食べなくても生きられるのに、甘いものが好きだったりするし……。いつも元気に振る舞ってくれる、本当にガキっぽい奴だった」


本当に、純粋な奴だった……―――


「それなのにさ、梨恋がいやがらせを受けてた時に支えてくれたりするんだよ」
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