春、恋。夢桜。
「キッチンに置いたままだったぞ。ピンクのトートバッグとスケッチブック。
あれ、麗華ちゃんが残してくれたものだろ?」
「あぁ……」
「何が入ってるのかは、梨恋ちゃんも俺も知らない。見てないからな。
……こんな所でいつまでもぼーっとしてるなんて時間の無駄だろ?」
ぐっ、と両手を上に伸ばした戸崎は、ぱっ、と腕を下ろした。
「それに、麗華ちゃんに失礼だ」
はっきりとした口調でそう言うと、戸崎は俺に背を向けて歩きだした。
静かにドアを開けて、もう一度こっちを振り返る。
「響、俺はもう帰るから。何かあったら何でも言えよ。
できることだったら、喜んで協力する」
微笑むわけでもなく、戸崎はさらっ、と言った。
こういう気遣いができるところが、戸崎の良いところなんだろう。
「響、ぼけっとしてんなよ」
「お前さ、何で初めから“響”って呼び捨てだったんだ?」
眉間に皺を寄せながら話す戸崎に、俺は言った。
「“櫻井”なんて長くて言いづらいだろうが。それだけだよ」
「そうか。“潤”の方が呼びやすいかもな……」
1人だけになった暗い部屋の中に、俺の声だけが深く響いた。
あれ、麗華ちゃんが残してくれたものだろ?」
「あぁ……」
「何が入ってるのかは、梨恋ちゃんも俺も知らない。見てないからな。
……こんな所でいつまでもぼーっとしてるなんて時間の無駄だろ?」
ぐっ、と両手を上に伸ばした戸崎は、ぱっ、と腕を下ろした。
「それに、麗華ちゃんに失礼だ」
はっきりとした口調でそう言うと、戸崎は俺に背を向けて歩きだした。
静かにドアを開けて、もう一度こっちを振り返る。
「響、俺はもう帰るから。何かあったら何でも言えよ。
できることだったら、喜んで協力する」
微笑むわけでもなく、戸崎はさらっ、と言った。
こういう気遣いができるところが、戸崎の良いところなんだろう。
「響、ぼけっとしてんなよ」
「お前さ、何で初めから“響”って呼び捨てだったんだ?」
眉間に皺を寄せながら話す戸崎に、俺は言った。
「“櫻井”なんて長くて言いづらいだろうが。それだけだよ」
「そうか。“潤”の方が呼びやすいかもな……」
1人だけになった暗い部屋の中に、俺の声だけが深く響いた。