春、恋。夢桜。
『よくわからんが、全部の物に『レイカ』と『櫻井響』って名前が書いてあるんだよ』
ふと、俺は月美丘で言われた台詞を思い出した。
思い立って、1番手前にあったノートの裏表紙を見る。
そこにはサインペンで書かれた丁寧な文字が並んでいた。
それを見た俺は、他のノートも全てひっくり返した。
そこにも、初めに見たノートと変わらないくらいに整った文字が並んでいる。
それは、色鉛筆でも、ひらがなの練習帳でも
全てに共通して言えることだった。
でも、少し不思議なことがある。
麗華に文字を教え始めてからは、まだ数日しかたっていない。
それなのに、ここに書かれてれている名前の文字は、どれもスムーズに書かれている気がした。
本来、名前を書くのにふさわしいであろう位置に書かれた『麗華』という文字。
その上に書いてある、『櫻井響』。
俺はノートの1つを、そっと手に取った。
そして、何気なくそれを開いた時、俺は思わず動きを止めた。